[Coupaサプライチェーンブログ]

ガートナーのハイプ・サイクルに見る継続的なイノベーションを支える4つのサプライチェーンテクノロジー


私たちがこの1年でサプライチェーンについて新たに学んだことがあるとすれば、それは、「サプライチェーンは止まらない」ということです。それどころか、サプライチェーンは生きていて、呼吸しているエコシステムであり、サービスの提供先である社内外の顧客との関係を維持するためには、常に進化する必要があります。ですからリーダーはサプライチェーンを継続的に革新するために新しい技術へ投資することが必然となっており、避けることはできません。

では、どこから手を付ければよいのでしょうか。

サプライチェーン分野のリーダーが参考にするリソースとして最も認知されているのが、ガートナー社が発表したサプライチェーンプランニング・テクノロジーのハイプ・サイクルです。このレポートは、様々なステークホルダーとの関係を保ちながら市場での競争力を獲得して維持するために、経営幹部が活用を検討すべきテクノロジーについて評価しています。

「今やテクノロジーはプロセスに勝ります。考え抜かれたデジタルプランニングと適切なツールがあれば、企業はプランニングを継続的に革新することができます」 - ガートナー社


イノベーションを生産性向上のための標準的取り組みに

プロセスを設計し、それを支えるテクノロジーを探すという古典的なアプローチは、もう過去のものです。今やテクノロジーはプロセスに勝るのです。

再度申し上げますが、今やテクノロジーはプロセスに勝るのです。

このことについて少し考えてみましょう。上の発言を聞くと、心理的にはちょっとした矛盾や違和感を持つかもしれません。ERPベンダーは、「広範囲なプロセス・リエンジニアリングを行わずに、ソリューションを導入するべきではない」とよく言っています。オペレーションを根本的に変えることのないテクノロジーを導入しても、パフォーマンスが飛躍的に向上することはありません。

ではなぜテクノロジーがプロセスに勝るのでしょうか。

答えは簡単です。企業は、新しいテクノロジーを活用するのに十分な速度でプロセスを進化させることができなくなっているからです。これからは、自社のサプライチェーンが提供する価値を増大させるための新たな機会を探さなければなりません。そのためには、既存の基盤に対して新しいテクノロジーを適用する必要があります。

私は、サプライチェーン分野に25年間携わってきた経験から、サプライチェーンに新しいテクノロジーを導入するのは、エンジンにターボチャージャーを取り付けるようなものだと考えています。つまり、新たなテクノロジーを追加することにより、オペレーション全体を混乱させることなく、既に行った投資のパフォーマンスを劇的に向上させるのです。導入された新しいテクノロジーは、パフォーマンスの向上が必要になったときに、その必要に応じてシームレスに起動します。レーシングカーと同じように、新しいテクノロジーを早い段階で採用した企業は、競合他社よりも圧倒的に有利となり、そのテクノロジーが普及するまでは競争に勝つことができます。
今こそ行動を起こし、それぞれの市場で「先駆者」としての利益を獲得すべき時です。サプライチェーンの能力が市場での競争優位を獲得できるかどうかを左右するケースがますます増えています。


このハイプ・サイクルの左に記載されているテクノロジーは次世代のサプライチェーン・プランニング(SCP)を形成するテクノロジーです。ハイプ・サイクルの右側に記載されているテクノロジーは、プランニングに対するより伝統的かつ定常的なアプローチを支えているものです。[このグラフは、ガートナー社が大規模なリサーチ・ドキュメントの一部として発表したもので、同ドキュメント全体の文脈の中で評価されるべきものです。該当ドキュメントは、こちらから入手いただけます。]


SCPの継続的イノベーションを支える4つのテクノロジー

大半の組織では、サプライチェーンデザインを実践する際、コンサルティング会社に依頼し、ネットワークをモデル化するソフトウェアでサプライチェーンのベースラインモデルを構築するというのが標準的な手法でした。その後、ソルバーを用いて最適なサプライチェーンを特定したり、目標とする弾力性や回復力に合わせてサプライチェーンを最適化します。ほとんどの場合、こうした計画は部分的にしか実装されず、次の予期せぬ変化が生じて緊急対応が必要になり、他の障害対応プロジェクトに移ってしまうのが常でした。そして、3〜4年後に同じサイクルが繰り返されます。

このような遅々とした、ゆっくりとしか進化しないモデルでは、ペースの速い今日の環境には対応できません。私たちは今、サプライチェーンデザインを一時的な取り組みから継続的に実践する方式へと移行している最中です。
ハイプ・サイクルにある4つのテクノロジーは、企業が常に一定の状態で変化しない定常的なサプライチェーンから、急激な変化に継続的に発展・適応していくサプライチェーンへの移行を成功させる上で特に優れていると、弊社は考えています。

1.デジタルサプライチェーンツイン(黎明期)
パンデミックによって、デジタルサプライチェーンツインの重要性と価値が浮き彫りになりました。デジタルツインを活用することにより、企業は数多くの「what-if(仮説)」シナリオをテストし、変化する市場環境や、これまで最善だと想定していた計画においてでさえ考慮していなかった混乱に対応するための最良の選択肢を特定できます。デジタルツインは、アジャイルなサプライチェーンを実現します。つまり、様々な(固定的または一時的)ボトルネックや制約を組み込んだ各選択肢が、企業のサプライチェーンに対していかなる潜在的な影響を与えるのかを数時間で把握することが可能になります。

2.長期的な需要感知(黎明期)
昨日販売したものと5年後の将来に販売するものとでは、販売場所も販売量も大きく異なります。もし需要予測を、過去の販売実績データ、数理的アルゴリズム、そして「直感」だけに頼って行おうとすれば、既に危うい状況に陥っていることになります。需要予測では、需要曲線を本質的に決定する因果関係として作用する社会経済的動向データを考慮する必要があります。社内の販売実績に外部データと機械学習を組み合わせて需要分析を行ったうえで、2~5年という長期的時間軸で将来の需要傾向を予測します。事業計画を考える際にも長期的な需要計画を統合することは重要です。

3.CORE(構成、最適化、対応)(幻滅期)
COREは、ちょうどレーシングカーを組み立てるように、サプライチェーンを構築するための指示書です。
  • 構成(Configure):企業の成長に合わせてサプライチェーンを意図的に構築します。顧客にサービスを提供するために、工場の新設、新倉庫の使用、新市場への参入、買収などを行います。そして、そのサプライチェーンを「稼働」させて、目標とする結果を出します。
  • 最適化(Optimize):デジタルサプライチェーンツインを使用して、一連の「what-if(仮説)」分析を行い、サプライチェーンの中でパフォーマンスを妨げている部分を特定します。例えば、ある倉庫を別の倉庫で代替する、インターモーダル輸送を陸上輸送に切り替える、製造を外部委託によって補強する、サプライヤーを追加するなどの対策を講じます。エンジンに供給されるガソリンが十分ではない場合は、燃料ポンプをより大きなものに交換して、エンジンのガソリン需要増に対応します。クリエイティブな発想で、他とは違うことを考え、本番前にシミュレーションでアイデアを試します。
  • 対応(Respond):どんなに綿密な計画を立てても、世界的パンデミックのような不測の事態が生じて調整が必要になることがあります。サプライチェーンを定期的にチェックし、望ましい結果を得るために短期的に計画を立て直します。レーシングカーのタイヤが外側エッジで早く摩耗してしまう場合は、キャンバー角を大きくします。14秒間のピットストップでタイヤを交換することも可能です。

4.在庫の多階層最適化(啓発期)
多階層在庫最適化は、より成熟したテクノロジーだと考えられていますが、多くの企業がこのケイパビリティをまだ活用するには至っていません。制約のある運転資本予算を最大限に活用するためには、企業は需要の変動性、補充サイクルタイム、目標の顧客充足率などを考慮しつつ適切な在庫レベルを設定しなくてはなりません。さらに、在庫評価クラス(原材料、中間体、完成品)を追加したり、顧客、工場、サプライヤーに近い場所に在庫を置く選択肢を増やすことにより、このアプローチをさらに深めていくことができます。そうすると、表計算ソフトでは処理できない最適化問題が発生します。競合他社が表計算ソフトで苦労している間に、アルゴリズムによって求解した最適な結果をERPシステムに入れて実行しましょう。高性能自動車の「チューニング」では、車の頭脳であるパワートレイン制御モジュールに新しい操作命令を読み込ませます。それと同じようなものだと考えてください。この「チューニング」は希望する走行特性に応じて簡単に変更することができます。それと同様に、ERPシステムの在庫設定もチューニングする必要があります。


連続するイノベーションサイクル

ガートナー社のハイプ・サイクルに含まれているものは全て、ある時期には新しいものですが、やがて生産の安定期を迎え、標準的技法へと移り変わっていきます。サプライチェーンプランニングで競争力を高めるには、企業のサプライチェーン・ロードマップにイノベーションを取り入れる方法を考えなければなりません。優先順位マトリックスを用いることで、潜在的な投資を全体的なサプライチェーン戦略に関連付け、これらの技術を評価できます。

デジタルサプライチェーンツイン、機械学習、継続的なインテリジェンスといったものは、現在の多くの量産車にターボチャージャーが搭載されているように、10年以内にサプライチェーンの標準テクノロジーとなるでしょう。今こそ、これらの技術を取り入れ、サプライチェーンを競争力のあるものにすることによって競争優位を獲得する絶好の機会です。


サプライチェーン・プランニング・テクノロジーのハイプ・サイクル、ガートナー社、2020年、Tim Payne、Amber Salley、Pia Orup Lund共著、2020年11月12日
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[参考資料]
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