[Coupaサプライチェーンブログ]

サプライチェーンの将来: 持続可能なオペレーション


(本ブログはThe Future of Supply Chain: Sustainable Operationsの抄訳です。)

一枚の木綿のシャツの製造に約2,700リットルもの水が使われるということをご存知ですか。この水量は、ひとり分の水の消費量900日分に相当します。水は一体どこで使われているのでしょう。実は、さまざまな場所で使われています。まず灌水が必要な綿花畑に始まり、洗浄による原綿の繊維の水処理、最後は完成品の毛糸や織物の染色へと続きます。もしあなたの会社がこのサプライチェーンを構築すると仮定した場合、どこで、どれだけの水が消費されるのか、そしてそれがサプライチェーンのどの段階で使われているのかを把握できるでしょうか。

数年前なら企業にとってこれは重要でなかったかもしれません。というのも、多くの間接的影響は特定や定量化が難しく、また、企業はサプライチェーンのコスト削減に注力するあまり、こうした事は優先されてこなかったためです。ですが、この方向性は変わりつつあり、純粋に最小コストを追い求めるより、多様な業績指標をもとに意図的にデザイン(設計)した持続可能なサプライチェーンへとシフトしています。

隠れた商品原価

持続可能なサプライチェーンを考える際に、最初に下記のような質問が出てきます。
 ・あなたの会社が出す廃棄物の量
 ・あなたの会社が出す温室効果ガスの量
 ・商品の移動に使用する化石燃料の依存量
 ・取引サプライヤーのエコ意識レベル

商品原価と企業活動を監視する各指標の間でバランスを取ろうとすると、持続可能なサプライチェーンを構築することが必要になります。つまり消費者、環境、そして創り上げてきたブランド価値を守るサプライチェーンのことです。リーバイス社は最終加工段階での水使用量に対する取り組みを始め、WaterLessというイニシアチブを策定し、ジーンズの仕上げ工程で消費する水の量を96%削減しました

サプライチェーンを変えるには、さまざまな考え方が必要になります。


最小コストでのサービス提供を設計

1990年代から2010年代半ばにかけては、サプライチェーンのコスト削減こそが唯一の使命でした。サプライチェーンは多くの組織にとって支出の大半を占めており、当然、財務上コントロールの主な標的になりました。しかし、地球環境に負荷をもたらし、輸送距離が伸び、また、概して生産活動の副産物について配慮がなかったため、しばしば実質的なトレードオフが伴いました。規模を拡大し競争力を保持するため、企業は健全で合理的な事業方針に沿った最小コストのサプライチェーンを追求しました。激化する市場競争の時代には、コストを排除し、マージンを改善し、株主価値を増すことに意味があったためです。これはまた、企業の格付けや投資家の利益の根拠になるファイナンス中心のKPIによって推進された側面もあります。

古くからの格言「測定できるものは管理できる」こそが原則でした。インパクトそのものを定義する難しさと、測定項目を策定し、データを追跡し、グローバルサプライチェーンの与えるインパクトを確実に示すことの難しさのバランスをとろうとして、サプライチェーンの計画業務担当者たちは自分たちの知識に頼りました。サプライチェーンは直接管理と外部委託サービスが混在して断片化しているうえに、グローバル化と新たなデータテクノロジーも加わって、開始初期の段階ではこうした取組みは、困難か不正確か不完全か、あるいはそのすべてだったかもしれません。

過去はそれで良かったわけですが、しかし、競争の性質やアクセスできるデータが進化したことで、持続可能なサプライチェーンの構築が実現できるようになってきました。

バリューチェーンのインパクトをエンドツーエンド(E2E)で見積もるには、サプライチェーンのサステナビリティの実情を評価し、適切なベンチマークを盛り込むための情報が必要ですが、公的記録へのアクセス向上、多階層グローバルサプライチェーンにおける透明性、公共団体や非営利団体による支援運動など、さまざまな努力があったおかげで、必要な情報は入手しやすくなっています。これだけ情報が取得しやすくなった今、我々は何を評価すべきでしょうか。

過去はそれで良かったわけですが、しかし、競争の性質やアクセスできるデータが進化したことで、持続可能なサプライチェーンの構築が実現できるようになってきました。


多様かつ管理可能なインパクトを生むサプライチェーン

企業が持続可能性の改善を追求するなら、サプライチェーンには幅広い削減機会や解消の機会が存在しています。

排出
排出に分類される大部分には、企業による管理や制御が可能な、温室効果ガスやオゾン層破壊ガスが含まれます。一般的に思いつくのは二酸化炭素ですが、規制物質で影響も甚大なハイドロフルオロカーボンなど、実際には一般的な排出物は多数存在します。分析は輸送の直接的影響に限られることが多いですが、徹底分析を行う際にはその生産環境も含まれます。例えば、コーヒーの焙煎は、工程上避けられない副産物として大量の亜酸化窒素を排出しています。


梱包
梱包に関わる消費も、環境に配慮するサプライチェーンにとっては大きな懸念材料です。(再生物を使わない)バージン原料は使用しているでしょうか。商品にはどの程度、輸送用コンテナにはどの程度使用しているでしょうか。循環サプライチェーンではこの材料を出来るだけ多く再収集しパレットや梱包材など直接再利用します。そうでなければ、リサイクルや転用に向けて強力な施策を確立させましょう。サプライチェーンで一度しか利用されないことを理由に、社会がプラスチックを好まなくなれば、企業には削減か全廃かという圧力がかかります。この点は、プロセスの見逃されている部分でもあり、社会全体の利益のため再エンジニアリングの機運が高まっています。

副産物  
近年、副産物は大きな注目を集めています。木綿のTシャツの話を覚えているでしょうか。製造に使う水は必ずしも失われたわけではありません。再取水や濾過技術の向上により、一度使ってそれで終わりという状況は改善可能になっています。企業の施設においても環境を考慮して管理するならば、水に含まれる汚染物質の大半を取り除いてから施設から排出できます。残念ながら現在の処理では、全ての副産物が低減、除去されるわけではありませんが、すぐに解決策がなくても、処理の現実というものに取り組むべきであり、こうした成分の計測・評価を行うべきです。

サプライチェーンの及ぼす影響を特定し、測定し、報告するという機会は非常に多く、その中に上述の項目はその一部です。何をするのか、誰のためにするのか、どういった役目を果たすのかを特定することは重要です。そしてまた、見落とされがちですが波及効果も忘れてはなりません。そうすれば組織はより持続可能なサプライチェーンへと導く道を見つけるための「重要なことは何か、そしてどこから始めるべきか」という新しい疑問にも答えを見出そうとするようになります。


企業も消費者も変化を求めている

この変化の必要性は一面的に語ることはできません。多くの企業が社内で推進する中核的な価値観やブランドに合わせるべきと考え、変化に取り込んでいます。社会的要請の変化や投資家側の直接的なアクティビスト介入といった外的圧力に対処する企業もあります。理由は何であれ、可能な限り環境にやさしい方法で顧客のニーズも満たす中間の方法を探りたいと願う多くの企業にとって、持続可能な供給体制の構築を求める声は今後10年から20年の目標の中心になりつつあります。IKEA、BMW、P&G、Appleなどの企業が、目標の定義だけでなく達成のための具体的な施策も公表しています。

持続可能なサプライチェーンの実践に対する消費者の関心は高まっています。ある調査によると、インターネットユーザーの47%が、個人の価値観に合わない商品やサービスの使用をやめたことがあるといいます。多くのブランドは、施策について透明性ある報告を増やす、環境に優しい素材を使った新商品を展開する、環境への影響を改善するといった方法で、短期的に排出ゼロかニュートラルという目標を立て、対応してきました。

世界中に分散するサプライチェーン・ネットワークを運用するには、多数の環境規制を意識し遵守する必要があります。近年のEUの傾向は、本社がどこにあろうと、最終的に材料を調達する場所、または商品が販売される場所の政策に準拠する必要があると示しています。2013年の木材規則、および、2018年の紛争鉱物規則といったEU地域の法規制は、原産国だけでなく伐採が行われたプロセスについても細かい追跡調査と報告を義務化したため、サプライチェーンの管理に、ある一定の複雑性が増しました。これは、温室効果ガス(GHG)ガスの追跡調査方法にまで拡大され、EU、カナダ、アメリカの各国はScope 1, 2, 3の排出量追跡と報告に関する指針や測定基準を定めました。 

企業の目標に向かうモチベーションが何であれ、今日の消費者がサステナビリティに対する努力を支持し、報いようとするのはほぼ間違いないことです。



持続可能なサプライチェーンの構築方法

回避、監視、検知、軽減に向けて構造的なアプローチを取ることが、持続可能性を願望から現実の競合優位性へと転換する方法です。企業オペレーションを変化させる際のベストプラクティスを下記にご紹介します。

1. 多様な支持者を見つけ、味方につける
どのようなサステナビリティの推進も、経営陣の賛同、従業員の支援、顧客のコミットメントが駆動力となります。目標を立て、経営層から日々の意思決定者層の全員が変革の旗振り役となり各役割にコミットするようにしましょう。

2. 評価・測定とベンチマーク
「測定できるものは管理できる」と言い続けるのには理由があります。それが機能するからです。サプライチェーンをモデル化し、活動を指標と結びつけ、BOMの無駄を評価し、現状のサプライチェーンを可視化し、透明性ある評価体制を構築しましょう。測定値や確認が包括的になればなるほど、改善の余地も多く見つかるでしょう。

3. サプライヤーを巻き込む
多様で複雑なグローバルサプライチェーンの可視化、把握するには、誠実なパートナー関係が必要です。情報の透明性は完璧ではありません。情報を手に入れる一番良い方法は、要求することです。サプライヤーに働きかけ、Scope 3に関する測定値を手に入れ、そのインパクト軽減に向け協力しましょう。責任を共有してパートナー関係を強化し、貴社が持続可能なサプライチェーンの目標を追求するなかで、どのサプライヤーが最良かを見極めましょう。

4. モデル化とスコアカードでKPIのバランスを保つ
何でもやってみようと強いプレッシャーが働くこともありますが、成熟した組織であればコストの増加とインパクトの低減の間で、最適なバランスを見つけていく必要があります。長く拡大したサプライチェーンのコストが、1個当たりのコストに注力することで解決するといった、両面でうまく行く取り組みもあります。コスト制御とインパクト低減のバランスを調整することで、改善の取り組みを複数作り出す可能性のある選択肢も得られます。

5. 目標の設定とクイックウィン(早期実現可能なもの)の優先
持続可能なサプライチェーンを構築する道筋において、すぐに成果の出る部分や最も単純な変革を見極めましょう。こうすると、新しいプログラムに信頼性が生まれます。例えば、多くの場合、生産コストを2~4%増やせば有害物質の排出を4割まで削減できるといいます。理想は目標を公表し、コミットメントを明示することです。

6. S.M.A.R.T. 目標
個人の目標と同じ論理がサステナビリティの取り組みにも応用できます。目標はS.M.A.R.T.であること、すなわち、specific(具体的)measurable(計測可能)attainable(達成可能)relevant(関連性がある)time-bound(時間制約がある)です。これができないと、結果を出すための行動変容に失敗する可能性があります。

7. サステナビリティを持続させる
サプライチェーンを監視し、何か不都合が起きた時に注意を促せるように、従来の方向を修正するだけでなく安全策を持つ持続可能なサプライチェーンの施策を設計しましょう。たとえば、
  • サプライヤーの行動は変化したか
  • 原産地申告に変更はないか
  • 報道のセンチメントの変化について読みとっているか
  • 貴社の取引活動で排出や廃棄が増えているとモデルが示しているか
信頼関係構築後も検証を継続しましょう。

8. 商品開発とオンボーディング(教育活動)の統合
問題は発生しなければ、解決する必要もありません。契約書やサプライヤーに対するトレーニングに、明確な価値観、目標、その遵守への期待を、先を見越して要素として加えましょう。レシピや部品表は熟慮した上で作成し、望ましくない部品や原材料を排除し、維持したいものについて購買を検討します。商品サンプリングや施設の視察は初期段階で行いましょう。非定期で事前打ち合わせのない監査の機会を設けましょう。情報にどのような傾向があるか、あるいは原産地における不正行為を検知するため、機会学習ツールを実装します。



持続可能な方向の修正が加速している

サステナビリティの方針とは、サプライチェーンが産業革命以来鍛えぬいて発達した筋肉のように備わっているわけではありません。より持続可能なサプライチェーンの構築は、新しく難しいものです。失敗もあるでしょうが、恩恵も本物です。多くの企業が早い時期に飛び込んで大きな成功を収め、今や施策をさらに強化しようとしています。IKEA、Mars、Bramblesだけでなく他の企業もただ目標を設定するだけではなく、達成し、その先へ進もうとしています。Brambles社2025年サステナビリティビジョンで、同社は低減や廃止を提案するにとどまらず、カーボンネガティブで森林面積を増やす「再生的サプライチェーン」の段階に進もうとしています。

消費者は変化しないブランドはためらうことなく見捨て、倫理意識のある持続可能な方法で調達された商品には割高でも対価を払うでしょう。社会的意識の高い投資活動へのシフトが見られ、施策の資金構成も変化が見られます。米国で本年度再導入された法律では、ESGに特化したファンドの透明性を高めるため、退職金の投資先を明確にし、純然たるESG投資商品の創設も許可しています。消費者が懐事情と相談している一方で、消費者の代表であるファンドマネージャーは退職金と相談しようとしているのです。さらに投資家のアクティビズムと組み合わせると、将来成長資金を確保できる企業では、トップダウン型の変化となり得るのです。

サステナビリティはビジネスの成長にも有益です。サステナビリティを掲げるブランドの成長は、こうした方針を掲げないブランドの成長率が1%だったのに対し、4%でした。サステナブルな商品や企業を積極的に求めるミレニアル世代やZ世代など、若い消費者が特にこの傾向の原動力になっています。消費者がこうしたプログラムのコストを進んで負担する姿勢は、企業がバランスシート上で躊躇する懸念を克服する後押しとなります。正しいことをするのは無料ではありませんが、共感する消費者たちには支持されるでしょう。

将来を見据えたリスク低減が、グローバルサプライチェーンネットワークデザインの土台からどのように始まるのかについては、我々の白書「リスク、回復力、サプライチェーンのモデリング」でご紹介しています。



Coupaと実現するサステナビリティ

持続可能なサプライチェーンの重要性が高まるなか、市場は最小コストを追求することから離れようとしています。購入から廃棄までの全体の支出管理プロセスを一体化する新たな情報システムによって、過去には夢でしかなかったサプライチェーン分析も可能になりました。

ビジネス・スペンド・マネジメント (BSM:ビジネス支出管理)のリーダーとして、Coupaはこの大量の情報から最大の価値を引き出すという課題に取り組んでいます。Coupaプラットフォームの、エンドツーエンド(E2E)でオープンなアーキテクチャは、機能毎に分散した記録システムを繋ぎ全体像を可視化するという課題解決の取り組みを後押しするものです。高度なモデル化テクノロジーにより、Coupaのお客様は、タイムラグやプロセス上の摩擦を最小限に抑えることが可能です。機能に特化したインタフェースを作成し、処方型インテリジェンスに接続することで、特定の機会を行動変容につなげ速度はさらに加速しています。AI搭載の最新モデル化ツールやスケーラブルなクラウドインフラストラクチャーで、大きな問題も解決可能になるだけではなく、さらには、まさに生きたプラットフォーム上で情報を活用することにより、組織内の意識を高め変化に力を与えてくれることでしょう。

Coupaの堅牢なクラウド型コラボレーションアプリケ―ションがあれば、ドイツの計画業務チームが、オーストラリアの小売店に商品を届けようとするブラジルの生産管理チームと同じ情報を利用することもできます。サプライチェーンを地域に特化させてみたり、サプライチェーンを短くしたらどのようなインパクトがあるか探りましょう。排出によるインパクトを低減させるために、新しいサプライヤーを導入し、レーンを短縮させたらどのような影響があるでしょうか。代替の梱包材を調達・導入したら、生産拠点に対してどのようなインパクトがあるかシミュレーションしてみましょう。

組織内で変化に対する最大の抵抗は(つまり各部門の実行部隊のことですが)変化を簡単にしプロセスに落とし込むことで克服も可能です。各ユーザーに、正しいフローの順序を動的に再検討する力を与えます。このアプローチなら孤立した意思決定はあり得ず、意思決定は他のバリューチェーンと調和します。グローバルの意識によって支えられた個別の意思決定が、あくまでゴール達成のための意思決定を促していきます。

可能な限り持続可能な、つながり合うグローバルサプライチェーンの実現を目指し、一緒に取り組みましょう。

 




[参考資料]
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